出来る。「こう湿気《しけ》てはたまらん」と眉《まゆ》をひそめる。女も「じめじめする事」と片手に袂《たもと》の先を握って見て、「香《こう》でも焚《た》きましょか」と立つ。夢の話しはまた延びる。
宣徳《せんとく》の香炉《こうろ》に紫檀《したん》の蓋があって、紫檀の蓋の真中には猿を彫《きざ》んだ青玉《せいぎょく》のつまみ手がついている。女の手がこの蓋にかかったとき「あら蜘蛛《くも》が」と云うて長い袖《そで》が横に靡《なび》く、二人の男は共に床《とこ》の方を見る。香炉に隣る白磁《はくじ》の瓶《へい》には蓮《はす》の花がさしてある。昨日《きのう》の雨を蓑《みの》着て剪《き》りし人の情《なさ》けを床《とこ》に眺《なが》むる莟《つぼみ》は一輪、巻葉は二つ。その葉を去る三寸ばかりの上に、天井から白金《しろがね》の糸を長く引いて一匹の蜘蛛《くも》が――すこぶる雅《が》だ。
「蓮の葉に蜘蛛|下《くだ》りけり香を焚《た》く」と吟じながら女一度に数弁《すうべん》を攫《つか》んで香炉の裏《うち》になげ込む。「※[#「虫+(くさかんむり/嘯のつくり)」、第4水準2−87−94]蛸《しょうしょう》懸《かかって》不
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