ントがカーライルの細君にシェレーの塑像《そぞう》を贈ったという事も知れている。このほかにエリオットのおった家とロセッチの住んだ邸《やしき》がすぐ傍《そば》の川端に向いた通りにある。しかしこれらは皆すでに代《だい》がかわって現に人が這入《はい》っているから見物は出来ぬ。ただカーライルの旧廬《きゅうろ》のみは六ペンスを払えば何人《なんびと》でもまた何時《なんどき》でも随意に観覧が出来る。
チェイン・ローは河岸端《かしっぱた》の往来を南に折れる小路でカーライルの家はその右側の中頃に在《あ》る。番地は二十四番地だ。
毎日のように川を隔《へだ》てて霧の中にチェルシーを眺《なが》めた余はある朝ついに橋を渡ってその有名なる庵《いお》りを叩《たた》いた。
庵りというと物寂《ものさ》びた感じがある。少なくとも瀟洒《しょうしゃ》とか風流とかいう念と伴《ともな》う。しかしカーライルの庵《いおり》はそんな脂《やに》っこい華奢《きゃしゃ》なものではない。往来《おうらい》から直《ただ》ちに戸が敲《たた》けるほどの道傍《みちばた》に建てられた四階|造《づくり》の真四角な家である。
出張った所も引き込んだ所も
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