《もっと》も単調な重複《ちょうふく》を厭《いと》わざるものには、すぐこの型を応用して実生活の便宜を計る事が出来るかも知れない。科学者の研究が未来に反射するというのはこのためである。しかし人間精神上の生活において、吾人がもし一イズムに支配されんとするとき、吾人は直《ただち》に与えられたる輪廓のために生存するの苦痛を感ずるものである。単に与えられたる輪廓の方便として生存するのは、形骸《けいがい》のために器械の用をなすと一般だからである。その時わが精神の発展が自個天然の法則に遵《したが》って、自己に真実なる輪廓を、自《みずか》らと自らに付与し得ざる屈辱を憤《いきどお》る事さえある。
精神がこの屈辱を感ずるとき、吾人はこれを過去の輪廓がまさに崩れんとする前兆と見る。未来に引き延ばしがたきものを引き延ばして無理にあるいは盲目的に利用せんとしたる罪過《ざいか》と見る。
過去はこれらのイズムに因って支配せられたるが故に、これからもまたこのイズムに支配せられざるべからずと臆断《おくだん》して、一短期の過程より得たる輪廓を胸に蔵して、凡《すべ》てを断ぜんとするものは、升《ます》を抱いて高さを計り、か
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