袴を脱《ぬ》いで、尻《しり》を端折つて、重《かさ》ね箪笥を車夫と一所に坐敷へ抱《かゝ》へ込みながら、先生どうです、此|服装《なり》は、笑《わら》つちや不可《いけ》ませんよと云つた。

       五の二

 翌日《よくじつ》、代助が朝食《あさめし》の膳《ぜん》に向《むか》つて、例の如く紅茶を呑《の》んでゐると、門野《かどの》が、洗《あら》ひ立《た》ての顔《かほ》を光《ひか》らして茶の間《ま》へ這入つて来《き》た。
「昨夕《ゆふべ》は何時《いつ》御帰《おかへ》りでした。つい疲《つか》れちまつて、仮寐《うたゝね》をしてゐたものだから、些《ちつ》とも気が付きませんでした。――寐《ね》てゐる所を御覧になつたんですか、先生も随分|人《ひと》が悪《わる》いな。全体何時|頃《ごろ》なんです、御帰りになつたのは。夫迄《それまで》何所《どこ》へ行《い》つて居《ゐ》らしつた」と平生《いつも》の調子で苦《く》もなく※[#「口+堯」、71−2]舌《しやべ》り立てた。代助は真面目《まじめ》で、
「君、すつかり片付迄《かたづくまで》居《ゐ》て呉《く》れたんでせうね」と聞いた。
「えゝ、すつかり片付《かたづ》けち
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