まいました。其代り、何《ど》うも骨《ほね》が折れましたぜ。何《なに》しろ、我々の引越《ひつこし》と違《ちが》つて、大きな物が色々《いろ/\》あるんだから。奥《おく》さんが坐敷《ざしき》の真中《まんなか》へ立《た》つて、茫然《ぼんやり》、斯《か》う周囲《まはり》を見回《みまは》してゐた様子《やうす》つたら、――随分|可笑《おかし》なもんでした」
「少《すこ》し身体《からだ》の具合が悪《わる》いんだからね」
「どうも左様《さう》らしいですね。色《いろ》が何《なん》だか可《よ》くないと思つた。平岡さんとは大違ひだ。あの人の体格は好《い》いですね。昨夕《ゆふべ》一所に湯《ゆ》に入つて驚ろいた」
代助はやがて書斎へ帰つて、手紙を二三本|書《か》いた。一本は朝鮮の統監府に居る友人|宛《あて》で、先達《せんだつ》て送つて呉れた高麗焼の礼状である。一本は仏蘭西に居る姉婿《あねむこ》宛で、タナグラの安いのを見付《みつ》けて呉れといふ依頼である。
昼過《ひるすぎ》散歩の出掛《でが》けに、門野《かどの》の室《へや》を覗《のぞ》いたら又|引繰《ひつく》り返つて、ぐう/\寐てゐた。代助は門野《かどの》の無邪
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