それから
夏目漱石

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)誰《だれ》か

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)此|掌《てのひら》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)六《む》※[#小書き濁点付き平仮名つ、25−10]かしい

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)初々《うい/\》しく
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

       一の一

 誰《だれ》か慌《あは》たゞしく門前《もんぜん》を馳《か》けて行く足音《あしおと》がした時、代助《だいすけ》の頭《あたま》の中《なか》には、大きな俎下駄《まないたげた》が空《くう》から、ぶら下《さが》つてゐた。けれども、その俎《まないた》下駄は、足音《あしおと》の遠退《とほの》くに従つて、すうと頭《あたま》から抜《ぬ》け出《だ》して消えて仕舞つた。さうして眼《め》が覚めた。
 枕元《まくらもと》を見ると、八重の椿《つばき》が一輪《いちりん》畳《たゝみ》の上に落
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