《お》けない性質《たち》のものだから、平岡も着《つ》いた明日《あくるひ》から心配して、所々奔走してゐるけれども、まだ出来さうな様子が見えないので、已を得ず三千代に云ひ付けて代助の所に頼みに寄《よこ》したと云ふ事が分《わか》つた。
「支店長から借りたと云ふ奴《やつ》ですか」
「いゝえ。其方《そのほう》は何時《いつ》迄延ばして置いても構はないんですが、此方《こつち》の方を何《ど》うかしないと困るのよ。東京で運動する方に響《ひゞ》いて来《く》るんだから」
 代助は成程そんな事があるのかと思つた。金高《かねだか》を聞くと五百円と少し許である。代助はなんだ其位と腹の中《なか》で考へたが、実際自分は一文もない。代助は、自分が金《かね》に不自由しない様でゐて、其実大いに不自由してゐる男だと気が付いた。
「何《なん》でまた、そんなに借金をしたんですか」
「だから私《わたくし》考へると厭《いや》になるのよ。私《わたくし》も病気をしたのが、悪《わる》いには悪《わる》いけれども」
「病気の時の費用なんですか」
「ぢやないのよ。薬代《くすりだい》なんか知れたもんですわ」
 三千代は夫《それ》以上を語《かた》ら
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