らうとしなくつても、使《つか》ふから同《おんな》じぢやありませんか」
「兄《にい》さんが何《なん》とか云つてましたか」
「兄《にい》さんは呆《あき》れてるから、何とも云やしません」
「随分猛烈だな。然し御父《おとう》さんより兄《にい》さんの方が偉《えら》いですね」
「何《ど》うして。――あら悪《にく》らしい、又あんな御世辞を使つて。貴方《あなた》はそれが悪《わる》いのよ。真面目《まじめ》な顔をして他《ひと》を茶化すから」
「左様《そん》なもんでせうか」
「左様《そん》なもんでせうかつて、他《ひと》の事ぢやあるまいし。少《すこ》しや考へて御覧なさいな」
「何《ど》うも此所《こゝ》へ来《く》ると、丸で門野《かどの》と同《おんな》じ様になつちまふから困《こま》る」
「門野《かどの》つて何《なん》です」
「なに宅《うち》にゐる書生ですがね。人《ひと》に何か云はれると、屹度|左様《そん》なもんでせうか、とか、左様《さう》でせうか、とか答へるんです」
「あの人が? 余っ程妙なのね」

       三の六

 代助は一寸《ちよつと》話《はなし》を已《や》めて、梅子《うめこ》の肩越《かたごし》に、窓
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