《はなし》を聞いて見ると、平岡の手紙には嘘《うそ》は一つも書いてないんだから仕方がない。其上御前は、此事に就て後悔もしなければ、謝罪もしない様に見受けられる。それぢや、おれだつて、帰つて御父《おとう》さんに取り成し様がない。御父《おとう》さんから云はれた通りを其儘御前に伝へて帰る丈の事だ。好《い》いか。御父《おとう》さんの云はれる事は分《わか》つたか」
「よく分《わか》りました」と代助は簡明に答へた。
「貴様《きさま》は馬鹿だ」と兄《あに》が大きな声を出した。代助は俯向《うつむ》いた儘|顔《かほ》を上《あ》げなかつた。
「愚図だ」と兄《あに》が又云つた。「不断《ふだん》は人並《ひとなみ》以上に減《へ》らず口《ぐち》を敲く癖に、いざと云ふ場合には、丸で唖の様に黙《だま》つてゐる。さうして、陰《かげ》で親の名誉に関《かゝ》はる様な悪戯《いたづら》をしてゐる。今日《こんにち》迄何の為《ため》に教育を受けたのだ」
 兄《あに》は洋卓《てえぶる》の上《うへ》の手紙を取《と》つて自分で巻《ま》き始めた。静《しづ》かな部屋の中《なか》に、半切《はんきれ》の音《おと》がかさ/\鳴《な》つた。兄《あに》
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