はそれを元《もと》の如《ごと》くに封筒に納めて懐中した。
「ぢや帰るよ」と今度は普通の調子で云つた。代助は叮嚀に挨拶をした。兄は、
「おれも、もう逢《あ》はんから」と云ひ捨てて玄関に出た。
 兄《あに》の去《さ》つた後《あと》、代助はしばらくして元の儘じつと動かずにゐた。門野《かどの》が茶器を取り片付《かたづ》けに来《き》た時、急に立《た》ち上《あ》がつて、
「門野《かどの》さん。僕は一寸《ちよつと》職業を探《さが》して来《く》る」と云ふや否や、鳥《とり》打帽を被《かぶ》つて、傘《かさ》も指《さ》さずに日盛《ひざか》りの表《おもて》へ飛び出した。
 代助は暑《あつ》い中《なか》を馳《か》けない許《ばかり》に、急《いそ》ぎ足に歩《ある》いた。日《ひ》は代助の頭《あたま》の上から真直《まつすぐ》に射|下《おろ》した。乾《かは》いた埃《ほこり》が、火の粉《こ》の様に彼《かれ》の素足《すあし》を包《つゝ》んだ。彼《かれ》はぢり/\と焦《こげ》る心持がした。
「焦《こげ》る/\」と歩《ある》きながら口《くち》の内《うち》で云つた。
 飯田橋へ来《き》て電車に乗《の》つた。電車は真直に走《はし》り
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