裏《うら》を代助の方へ向けて、
「此男を知つてるかい」と聞いた。其所《そこ》には平岡の宿所姓名が自筆で書いてあつた。
「知つてます」と代助は殆んど器械的に答へた。
「元《もと》、御前《おまへ》の同級生だつて云ふが、本当か」
「さうです」
「此男の細君も知つてるのかい」
「知つてゐます」
兄《あに》は又扇を取り上《あ》げて、二三度ぱち/\と鳴らした。それから、少し前へ乗り出す様に、声を一段|落《おと》した。
「此男の細君と、御前《おまへ》が何か関係があるのかい」
代助は始めから万事を隠す気はなかつた。けれども斯う単簡に聞かれたときに、何《ど》うして此複雑な経過を、一言《いちげん》で答へ得るだらうと思ふと、返事は容易に口《くち》へは出《で》なかつた。兄《あに》は封筒の中《なか》から、手紙を取《と》り出《だ》した。それを四五寸ばかり捲《ま》き返《かへ》して、
「実《じつ》は平岡と云ふ人が、斯《か》う云ふ手紙を御父《おとう》さんの所へ宛《あて》ゝ寄《よ》こしたんだがね。――読《よ》んで見るか」と云つて、代助に渡《わた》した。代助は黙《だま》つて手紙を受取つて、読《よ》み始めた。兄《あに》は
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