《かほ》を、半分ばかり門野《かどの》の方へ向き易《か》へた。其時《そのとき》客の足音《あしおと》が椽側にして、案内も待《ま》たずに兄《あに》の誠吾が這入つて来《き》た。
「やあ、此方《こつち》へ」と席を勧めたのが代助にはやうやうであつた。誠吾は席に着《つ》くや否や、扇子を出して、上布《じやうふ》の襟《えり》を開《ひら》く様に、風《かぜ》を送つた。此暑さに脂肪《しぼう》が焼《や》けて苦しいと見えて、荒い息遣《いきづかひ》をした。
「暑《あつ》いな」と云つた。
「御宅《おたく》でも別に御変りもありませんか」と代助は、左《さ》も疲《つか》れ果《は》てた人《ひと》の如くに尋《たづ》ねた。
 二人《ふたり》は少時《しばらく》例の通りの世間話《せけんばなし》をした。代助の調子態度は固より尋常ではなかつた。けれども兄《あに》は決して何《ど》うしたとも聞《き》かなかつた。話《はなし》の切《き》れ目《め》へ来《き》た時、
「今日《けふ》は実《じつ》は」と云ひながら、懐《ふところ》へ手を入れて、一通の手紙を取り出した。
「実《じつ》は御|前《まへ》に少し聞《き》きたい事があつて来《き》たんだがね」と封筒の
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