《だい》に星《ほし》の色《いろ》を濃《こ》くした。代助は暗《くら》さと涼しさのうちに始めて蘇生《よみがへ》つた。さうして頭《あたま》を露《つゆ》に打《う》たせながら、又三千代のゐる所迄|遣《や》つて来《き》たのである。
代助は三千代の門前を二三度|行《い》つたり来《き》たりした。軒燈の下《した》へ来《く》るたびに立ち留《ど》まつて、耳を澄《す》ました。五分乃至十分は凝《じつ》としてゐた。しかし家《うち》の中《なか》の様子は丸で分《わか》らなかつた。凡てが寂《しん》としてゐた。
代助が軒燈《けんとう》の下《した》へ来《き》て立ち留《と》まるたびに、守宮《やもり》が軒燈の硝子《がらす》にぴたりと身体《からだ》を貼《は》り付けてゐた。黒い影は斜《はす》に映《うつ》つた儘|何時《いつ》でも動《うご》かなかつた。
代助は守宮《やもり》に気が付く毎《ごと》に厭《いや》な心持がした。其|動《うご》かない姿が妙に気に掛《かゝ》つた。彼の精神は鋭どさの余りから来《く》る迷信に陥いつた。三千代は危険だと想像した。三千代は今苦しみつゝあると想像した。三千代は今死につゝあると想像した。三千代は死ぬ前に、
前へ
次へ
全490ページ中478ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング