寄せて中《なか》を窺ふと、中《なか》は暗《くら》かつた。立て切つた門の上に、軒燈が空《むな》しく標札を照《て》らしてゐた。軒燈の硝子《がらす》に守宮《やもり》の影《かげ》が斜《なゝ》めに映《うつ》つた。
 代助は今朝《けさ》も此所《こゝ》へ来《き》た。午《ひる》からも町内を彷徨《うろつ》いた。下女が買物にでも出《で》る所を捕《つら》まへて、三千代の容体を聞かうと思つた。然し下女は遂に出て来《こ》なかつた。平岡の影も見えなかつた。塀の傍《そば》に寄《よ》つて耳を澄《す》ましても、夫《それ》らしい人声《ひとごえ》は聞えなかつた。医者を突《つ》き留《と》めて、詳しい様子を探らうと思つたが、医者らしい車は平岡の門前には留《とま》らなかつた。そのうち、強い日に射付けられた頭《あたま》が、海《うみ》の様に動《うご》き始めた。立ち留《ど》まつてゐると、倒れさうになつた。歩《ある》き出すと、大地が大きな波紋を描《ゑが》いた。代助は苦しさを忍《しの》んで這《は》ふ様に家《うち》へ帰つた。夕食《ゆふめし》も食《く》はずに倒れたなり動《うご》かずにゐた。其時|恐《おそ》るべき日は漸く落《お》ちて、夜が次|第
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