な答をして、寺町《てらまち》の通り迄|来《き》た。暑《あつ》い時分の事なので、町《まち》はまだ宵《よひ》の口《くち》であつた。浴衣《ゆかた》を着《き》た人が幾人となく代助の前後《ぜんご》を通つた。代助には夫《それ》が唯《たゞ》動《うご》くものとしか見えなかつた。左右《さゆう》の店《みせ》は悉く明《あか》るかつた。代助は眩《まぼ》しさうに、電気燈の少《すく》ない横町へ曲《まが》つた。江戸川の縁《ふち》へ出《で》た時、暗《くら》い風が微《かす》かに吹《ふ》いた。黒《くろ》い桜《さくら》の葉が少し動《うご》いた。橋《はし》の上《うへ》に立つて、欄干《らんかん》から下《した》を見|下《おろ》してゐたものが二人《ふたり》あつた。金剛寺|坂《ざか》では誰にも逢はなかつた。岩崎家の高い石垣が左右から細い坂道《さかみち》を塞《ふさ》いでゐた。
 平岡の住《す》んでゐる町《まち》は、猶静かであつた。大抵な家《うち》は灯影《ひかげ》を洩《も》らさなかつた。向ふから来《き》た一台の空車《からぐるま》の輪の音《おと》が胸を躍らす様に響《ひゞ》いた。代助は平岡の家《いへ》の塀際迄|来《き》て留《とま》つた。身を
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