れは残酷だ」
代助は洋卓《てえぶる》の縁《ふち》を回《まは》つて、平岡に近《ちか》づいた。右の手で平岡の脊広《せびろ》の肩《かた》を抑えて、前後に揺《ゆ》りながら、
「苛《ひど》い、苛《ひど》い」と云つた。
平岡は代助の眼《め》のうちに狂《くる》へる恐ろしい光《ひかり》を見出した。肩《かた》を揺《ゆ》られながら、立ち上《あ》がつた。
「左《そ》んな事があるものか」と云つて代助の手を抑《おさ》えた。二人《ふたり》は魔《ま》に憑《つ》かれた様な顔をして互を見た。
「落ち付かなくつちや不可《いけ》ない」と平岡が云つた。
「落ち付《つ》いてゐる」と代助が答へた。けれども其言葉は喘《あへ》ぐ息《いき》の間《あひだ》を苦《くる》しさうに洩れて出た。
暫らくして発作の反動が来《き》た。代助は己《おの》れを支ふる力を用ひ尽《つく》した人の様に、又椅子に腰を卸《おろ》した。さうして両手で顔を抑えた。
十七の一
代助は夜の十時|過《すぎ》になつて、こつそり家《いへ》を出《で》た。
「今《いま》から何方《どちら》へ」と驚ろいた門野《かどの》に、
「何《なに》一寸《ちよつと》」と曖昧
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