博物館の前から話しつゞけて、あの橋《はし》の所迄|来《き》た時、君は僕の為《ため》に泣いて呉れた」
代助は黙然としてゐた。
「僕は其時程朋友を難有いと思つた事はない。嬉《うれ》しくつて其晩は少しも寐《ね》られなかつた。月のある晩《ばん》だつたので、月の消える迄起きてゐた」
「僕もあの時は愉快だつた」と代助が夢の様に云つた。それを平岡は打ち切る勢で遮《さへぎ》つた。――
「君は何だつて、あの時僕の為《ため》に泣いて呉れたのだ。なんだつて、僕の為《ため》に三千代を周旋しやうと盟《ちか》つたのだ。今日《こんにち》の様な事を引き起す位なら、何故《なぜ》あの時、ふんと云つたなり放《ほう》つて置いて呉れなかつたのだ。僕は君から是程深刻な復讐《かたき》を取られる程、君に向つて悪い事をした覚《おぼえ》がないぢやないか」
平岡は声を顫《ふる》はした。代助の蒼《あを》い額に汗《あせ》の珠《たま》が溜《たま》つた。さうして訴たへる如くに云つた。
「平岡、僕は君より前から三千代さんを愛してゐたのだよ」
平岡は茫然として、代助の苦痛の色を眺めた。
「其時の僕は、今の僕でなかつた。君から話を聞いた時、僕の未
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