た。其晩は遅《おそ》く帰つた。三千代は心持が悪《わる》いといつて先《さき》へ寐《ね》てゐた。何《ど》んな具合かと聞《き》いても、判然《はつきり》した返事をしなかつた。翌日朝起きて見ると三千代の色沢《いろつや》が非常に可《よ》くなかつた。平岡は寧ろ驚ろいて医者を迎へた。医者は三千代の心臓を診察して眉をひそめた。卒倒は貧血の為《ため》だと云つた。随分強い神経衰弱に罹《かゝ》つてゐると注意した。平岡は夫《それ》から社を休《やす》んだ。本人は大丈夫だから出て呉《く》れろと頼む様に云つたが、平岡は聞《き》かなかつた。看護をしてから二日目《ふつかめ》の晩《ばん》に、三千代《みちよ》が涙《なみだ》を流して、是非|詫《あや》まらなければならない事があるから、代助の所へ行つて其訳を聞いて呉れろと夫《おつと》に告げた。平岡は始めてそれを聞いた時には、本当にしなかつた。脳《のう》の加減《かげん》が悪《わる》いのだらうと思つて、好《よ》し/\と気休《きやす》めを云つて慰めてゐた。三日目《みつかめ》にも同じ願が繰り返された。其時平岡は漸やく三千代の言葉に一種の意味を認《みと》めた。すると夕方《ゆふがた》になつて
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