日《きのふ》不要の本《ほん》を取りに来《き》て呉れと頼《たの》んで置いたが、少し都合があつて見合せる事にしたから、其積で」と断つた。帰りには、暑さが余り酷《ひど》かつたので、電車で飯田橋へ回《まは》つて、それから揚場《あげば》を筋違《すぢかひ》に毘沙門前《びしやもんまへ》へ出《で》た。
 家《うち》の前には車が一台《いちだい》下《お》りてゐた。玄関には靴《くつ》が揃へてあつた。代助は門野《かどの》の注意を待たないで、平岡の来《き》てゐる事を悟つた。汗《あせ》を拭《ふ》いて、着物《きもの》を洗《あら》ひ立《た》ての浴衣《ゆかた》に改めて、座敷へ出《で》た。
「いや、御使《おつかひ》で」と平岡が云つた。矢張り洋服を着《き》て、蒸《む》される様に扇を使つた。
「何《ど》うも暑《あつ》い所を」と代助も自《おのづ》から表立《おもてだつ》た言葉|遣《づかひ》をしなければならなかつた。
 二人《ふたり》はしばらく時候の話をした。代助はすぐ三千代の様子を聞いて見たかつた。然しそれが何《ど》う云ふものか聞き悪《にく》かつた。其内《そのうち》通例の挨拶も済《す》んで仕舞つた。話《はなし》は呼び寄せた方から
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