又廊下のはづれに現《あら》はれた。
「まだ暗闇《くらやみ》ですな。洋燈《ランプ》を点《つ》けますか」と聞いた。代助は洋燈《ランプ》を断《ことわ》つて、もう一度《いちど》、三千代の病気を尋ねた。看護婦の有無やら、平岡の様子やら、新聞社を休んだのは、細君の病気の為《ため》だか、何《ど》うだか、と云ふ点に至る迄、考へられる丈問ひ尽した。けれども門野の答は必竟前と同じ事を繰り返すのみであつた。でなければ、好加減な当《あて》ずつぽうに過ぎなかつた。それでも、代助には一人《ひとり》で黙つてゐるよりも堪《こら》え易《やす》かつた。
十六の六
寐《ね》る前《まへ》に門野《かどの》が夜中投函から手紙を一本|出《だ》して来《き》た。代助は暗い中《うち》でそれを受取《うけと》つた儘、別《べつ》に見様ともしなかつた。門野《かどの》は、
「御宅《おたく》からの様です。灯火《あかり》を持《も》つて来《き》ませうか」と促《うな》がす如くに注意した。
代助は始めて洋燈《ランプ》を書斎に入れさして、其下《そのした》で、状袋の封を切《き》つた。手紙は梅子から自分に宛《あ》てた可なり長いものであつた。
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