編輯局の窓を見上《みあ》げながら、足《あし》を運ぶ前に、一応電話で聞き合《あは》すべき筈だつたと思つた。先達ての手紙は、果して平岡の手に渡つたかどうか、夫《それ》さへ疑《うたが》はしくなつた。代助はわざと新聞社宛でそれを出《だ》したからである。帰りに神田へ廻《まは》つて、買ひつけの古本《ふるほん》屋に、売払ひたい不用の書物があるから、見《み》に来《き》てくれろと頼《たの》んだ。
其|晩《ばん》は水《みづ》を打《う》つ勇気も失《う》せて、ぼんやり、白い網襯衣《あみしやつ》を着《き》た門野の姿《すがた》を眺《なが》めてゐた。
「先生|今日《けふ》は御疲《おつかれ》ですか」と門野《かどの》が馬尻《ばけつ》を鳴らしながら云つた。代助の胸は不安《ふあん》に圧《お》されて、明《あき》らかな返事も出《で》なかつた。夕食《ゆふめし》のとき、飯《めし》の味《あぢ》は殆んどなかつた。呑《の》み込む様に咽喉《のど》を通《とほ》して、箸《はし》を投《な》げた。門野《かどの》を呼んで、
「君、平岡の所へ行つてね、先達《せんだつ》ての手紙は御覧になりましたか。御覧になつたら、御返事を願ひますつて、返事を聞いて来
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