夫なのよ。だつて何時《いつ》殺《ころ》されたつて好《い》いんですもの」
「さう死ぬの殺されるのと安《やす》つぽく云ふものぢやない」
「だつて、放《ほう》つて置《お》いたつて、永《なが》く生きられる身体《からだ》ぢやないぢやありませんか」
 代助は硬《かた》くなつて、竦《すく》むが如く三千代を見詰めた。三千代は歇私的里《ヒステリ》の発作《ほつさ》に襲《おそ》はれた様に思ひ切つて泣《な》いた。

       十六の四

 一仕切《ひとしきり》経《た》つと、発作《ほつさ》は次第に収《おさ》まつた。後《あと》は例《いつも》の通り静《しづ》かな、しとやかな、奥行《おくゆき》のある、美《うつ》くしい女になつた。眉のあたりが殊に晴《はれ》/″\しく見えた。其時代助は、
「僕が自分で平岡君に逢つて解決を付《つ》けても宜《よ》う御座《ござ》んすか」と聞《き》いた。
「そんな事が出来て」と三千代は驚ろいた様であつた。代助は、
「出来る積《つもり》です」と確《しつか》り答へた。
「ぢや、何《ど》うでも」と三千代が云つた。
「さうしませう。二人《ふたり》が平岡君を欺《あざむ》いて事をするのは可《よ》くない様
前へ 次へ
全490ページ中445ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング