は此問を受けた時でも、依然として幸福であつた。
「あつたつて、構《かま》はないわ」
「貴方《あなた》は夫程僕を信用してゐるんですか」
「信用してゐなくつちや、斯《か》うして居られないぢやありませんか」
 代助は目映《まぼ》しさうに、熱《あつ》い鏡《かゞみ》の様な遠い空《そら》を眺《なが》めた。

       十六の三

「僕には夫程信用される資格がなささうだ」と苦《く》笑しながら答へたが、頭《あたま》の中《なか》は焙炉《ほいろ》の如く火照《ほて》つてゐた。然し三千代は気にも掛《か》からなかつたと見えて、何故《なぜ》とも聞《き》き返さなかつた。たゞ簡単に、
「まあ」とわざとらしく驚ろいて見せた。代助は真面目《まじめ》になつた。
「僕は白状するが、実を云ふと、平岡君より頼《たより》にならない男なんですよ。買ひ被つてゐられると困るから、みんな話《はな》して仕舞ふが」と前置《まへおき》をして、夫《それ》から自分と父《ちゝ》との今日迄の関係を詳しく述《の》べた上《うへ》、
「僕の身分《みぶん》は是から先《さき》何《ど》うなるか分《わか》らない。少《すく》なくとも当分は一人前《いちにんまへ》ぢや
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