。廂《ひさし》の長い小《ちい》さな部屋なので、居《ゐ》ながら庭《には》を見ると、廂《ひさし》の先《さき》で庭《には》が仕切《しき》られた様な感がある。少《すく》なくとも空《そら》は広《ひろ》く見えない。其代り静《しづ》かで、落ち付いて、尻《しり》の据《すわ》り具合が好《い》い。
 親爺《おやぢ》は刻《きざ》み烟草《たばこ》を吹《ふ》かすので、手《て》のある長い烟草盆を前へ引き付けて、時々《とき/″\》灰吹《はいふき》をぽん/\と叩《たゝ》く。それが静かな庭《には》へ響いて好《い》い音《おと》がする。代助の方は金《きん》の吸口《すひくち》を四五本|手烙《てあぶり》の中《なか》へ並《なら》べた。もう鼻《はな》から烟《けむ》を出すのが厭《いや》になつたので、腕組《うでぐみ》をして親爺《おやぢ》の顔《かほ》を眺《なが》めてゐる。其|顔《かほ》には年《とし》の割に肉《にく》が多い。それでゐて頬《ほゝ》は痩《こ》けてゐる。濃《こ》い眉《まゆ》の下《した》に眼《め》の皮《かは》が弛《たる》んで見える。髭《ひげ》は真白《まつしろ》と云はんよりは、寧ろ黄色《きいろ》である。さうして、話《はなし》をすると
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