た。白粉草《おしろいそう》が垣根の傍《そば》で花を着けた。手水鉢の蔭《かげ》に生《は》えた秋海棠の葉が著《いちゞ》るしく大きくなつた。梅雨《つゆ》は漸く晴れて、昼は雲《くも》の峰《みね》の世界となつた。強い日《ひ》は大きな空《そら》を透《す》き通《とほ》す程焼いて、空《そら》一杯の熱を地上に射り付ける天気となつた。
 代助は夜《よ》に入つて頭《あたま》の上《うへ》の星ばかり眺《なが》めてゐた。朝《あさ》は書斎に這入つた。二三日は朝から蝉の声が聞《きこ》える様になつた。風呂場へ行つて、度々《たび/\》頭《あたま》を冷《ひや》した。すると門野がもう好《い》い時分だと思つて、
「何《ど》うも非常な暑さですな」と云つて、這入つて来《き》た。代助は斯《か》う云ふ上《うは》の空《そら》の生活を二日程|送《おく》つた。三日目の日盛《ひざかり》に、彼は書斎の中《なか》から、ぎら/\する空《そら》の色《いろ》を見詰《みつ》めて、上《うへ》から吐《は》き下《おろ》す焔《ほのほ》の息《いき》を嗅《か》いだ時に、非常に恐ろしくなつた。それは彼《かれ》の精神が此猛烈なる気候から永久の変化を受けつゝあると考へた為
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