たま》には不安の旋風《つむじ》が吹き込んだ。三つのものが巴《ともえ》の如く瞬時の休《やす》みなく回転した。其結果として、彼の周囲が悉く回転しだした。彼《かれ》は船《ふね》に乗つた人《ひと》と一般であつた。回転する頭《あたま》と、回転する世界の中《なか》に、依然として落ち付いてゐた。
青山《あをやま》の宅《うち》からは何の消息もなかつた。代助は固よりそれを予期してゐなかつた。彼は力《つと》めて門野を相手にして他愛ない雑談に耽《ふけ》つた。門野は此暑さに自分の身体《からだ》を持ち扱つてゐる位、用のない男であつたから、頗る得意に代助の思ふ通り口《くち》を動《うご》かした。それでも話し草臥《くたび》れると、
「先生、将棋は何《ど》うです」抔と持ち掛けた。夕方《ゆふがた》には庭《には》に水を打《う》つた。二人《ふたり》共|跣足《はだし》になつて、手桶を一杯|宛《づゝ》持《も》つて、無分別に其所等《そこいら》を濡《ぬ》らして歩《ある》いた。門野《かどの》が隣《となり》の梧桐の天辺《てつぺん》迄|水《みづ》にして御目にかけると云つて、手桶の底を振り上《あ》げる拍子に、滑《すべ》つて尻持を突《つ》い
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