》あつて、
「勇気が要《い》るのかい」と手に持《も》つてゐた烟管《きせる》を畳《たゝみ》の上《うへ》に放《ほう》り出《だ》した。代助は膝頭《ひざがしら》を見詰めて黙《だま》つてゐた。
「当人が気に入らないのかい」と父が又|聞《き》いた。代助は猶返事をしなかつた。彼は今迄|父《ちゝ》に対して己《おの》れの四半分も打ち明《あ》けてはゐなかつた。その御|蔭《かげ》で父《ちゝ》と平和の関係を漸く持続して来《き》た。けれども三千代の事丈は始めから決して隠《かく》す気はなかつた。自分の頭《あたま》の上《うへ》に当然落ちかゝるべき結果を、策で避《さ》ける卑怯が面白くなかつたからである。彼はたゞ自白の期に達してゐないと考へた。従つて三千代の名は丸で口《くち》へは出《だ》さなかつた。父《ちゝ》は最後に、
「ぢや何《なん》でも御前《おまへ》の勝手にするさ」と云つて苦《にが》い顔《かほ》をした。
 代助も不愉快であつた。然し仕方がないから、礼をして父《ちゝ》の前《まへ》を退《さ》がらうとした。ときに父《ちゝ》は呼び留《と》めて、
「己《おれ》の方でも、もう御前《おまへ》の世話はせんから」と云つた。座敷へ帰つ
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