此際に執るべき方針は云はずして明《あき》らかであつた。三千代との関係を撤回する不便なしに、父に満足を与へる為《ため》の結婚を承諾するに外《ほか》ならなかつた。代助は斯《か》くして双方を調和する事が出来《でき》た。何方付《どつちつ》かずに真中《まんなか》へ立《た》つて、煮え切らずに前進する事は容易であつた。けれども、今《いま》の彼《かれ》は、不断《ふだん》の彼とは趣《おもむき》を異にしてゐた。再び半身を埒外《らつぐわい》に挺《ぬきん》でて、余人と握手するのは既に遅《おそ》かつた。彼は三千代に対する自己の責任を夫程深く重いものと信じてゐた。彼の信念は半《なか》ば頭《あたま》の判断から来《き》た。半ば心《こゝろ》の憧憬から来《き》た。二つのものが大きな濤《なみ》の如くに彼を支配した。彼は平生の自分から生れ変つた様に父《ちゝ》の前に立《た》つた。
 彼《かれ》は平生の代助の如く、成る可く口数《くちかず》を利《き》かずに控《ひか》えてゐた。父《ちゝ》から見れば何時《いつ》もの代助と異なる所はなかつた。代助の方では却つて父《ちゝ》の変《かは》つてゐるのに驚ろいた。実は此間から幾度《いくたび》も会見
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