取れ、優柔の生れ付《つき》とも思はれる遣口《やりくち》であつた。彼《かれ》自身さへ、此二つの非難の何《いづ》れを聞《き》いた時に、左様《さう》かも知れないと、腹《はら》の中《なか》で首《くび》を捩《ひね》らぬ訳《わけ》には行《い》かなかつた。然し其原因の大部分は策略でもなく、優柔でもなく、寧ろ彼《かれ》に融通の利《き》く両《ふた》つの眼《め》が付《つ》いてゐて、双方を一時に見《み》る便宜を有してゐたからであつた。かれは此能力の為に、今日迄一図に物《もの》に向つて突進する勇気を挫《くぢ》かれた。即かず離れず現状に立ち竦《すく》んでゐる事が屡《しば/\》あつた。此現状維持の外観が、思慮の欠乏から生ずるのでなくて、却つて明白な判断に本いて起ると云ふ事実は、彼《かれ》が犯すべからざる敢為の気象を以て、彼の信ずる所を断行した時に、彼自身にも始めて解《わか》つたのである。三千代の場合は、即ち其|適例《てきれい》であつた。
 彼は三千代の前に告白した己《おの》れを、父《ちゝ》の前で白紙にしやうとは想《おも》ひ到《いた》らなかつた。同時に父《ちゝ》に対しては、心《しん》から気の毒であつた。平生の代助が
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