いで》に対して、今更驚ろく程、始めから父《ちゝ》を買ひ被つてはゐなかつた。最後の会見に、父《ちゝ》が従来の仮面《かめん》を脱《ぬ》いで掛《か》かつたのを、寧ろ快《こゝろ》よく感じた。彼自身《かれじしん》も、斯《こ》んな意味の結婚を敢てし得る程度の人間《にんげん》だと自《みづか》ら見積《みつもつ》てゐた。
 其上《そのうへ》父《ちゝ》に対して何時《いつ》にない同情があつた。其|顔《かほ》、其|声《こえ》、其代助を動かさうとする努力、凡てに老後の憐れを認める事が出来た。代助はこれをも、父の策略とは受取り得なかつた。私《わたくし》は何《ど》うでも宜《よ》う御座いますから、貴方《あなた》の御都合の好《い》い様に御|極《き》めなさいと云ひたかつた。

       十五の五

 けれども三千代と最後の会見《くわいけん》を遂《と》げた今更《いまさら》、父《ちゝ》の意に叶《かな》ふ様な当座の孝行は代助には出来かねた。彼は元来が何方付《どつちつ》かずの男であつた。誰《だれ》の命令も文字通りに拝承した事のない代りには、誰《だれ》の意見にも露《むき》に抵抗した試がなかつた。解釈のしやうでは、策士の態度とも
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