たので、代助は最前|嫂《あによめ》の云つた事を愈重く見なければならなくなつた。
 父《ちゝ》は年《とし》の所為《せゐ》で健康の衰へたのを理由として、近々実業界を退く意志のある事を代助に洩《も》らした。けれども今は日露戦争後の商工業膨脹の反動を受けて、自分の経営にかゝる事業が不景気の極端に達してゐる最中《さいちう》だから、此難関を漕《こ》ぎ抜けた上《うへ》でなくては、無責任の非難を免かれる事が出来ないので、当分已を得ずに辛抱してゐるより外に仕方がないのだと云ふ事情を委しく話した。代助は父《ちゝ》の言葉を至極尤もだと思つた。
 父《ちゝ》は普通の実業なるものゝ困難と危険と繁劇と、それ等から生ずる当事者の心《こゝろ》の苦痛及び緊張の恐るべきを説いた。最後に地方の大|地主《ぢぬし》の、一見|地味《ぢみ》であつて、其実自分等よりはずつと鞏固の基礎を有してゐる事を述べた。さうして、此比較を論拠として、新たに今度の結婚を成立させやうと力めた。
「さう云ふ親類が一軒位あるのは、大変な便利で、且つ此際《このさい》甚だ必要ぢやないか」と云つた。代助は、父《ちゝ》としては寧ろ露骨過ぎる此政略的結婚の申し出《
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