ら、こんな陰気な言葉を聞《き》くのは始めてであつた。不意に穴倉《あなぐら》へ落《お》ちた様な心持がした。
 父《ちゝ》は烟草盆を前に控えて、俯向《うつむ》いてゐた。代助の足音を聞《き》いても顔《かほ》を上《あ》げなかつた。代助は父《ちゝ》の前《まへ》へ出《で》て、叮嚀に御辞儀をした。定《さだ》めて六づかしい眼付《めつき》をされると思ひの外、父《ちゝ》は存外|穏《おだや》かなもので、
「降《ふ》るのに御苦労だつた」と労《いた》はつて呉れた。其時始めて気が付《つ》いて見ると、父《ちゝ》の頬《ほゝ》が何時《いつ》の間《ま》にかぐつと瘠《こ》けてゐた。元来が肉《にく》の多い方だつたので、此変化が代助には余計目立つて見えた。代助は覚えず、
「何《ど》うか為《な》さいましたか」と聞いた。
 父《ちゝ》は親《おや》らしい色《いろ》を一寸《ちよつと》顔《かほ》に動《うご》かした丈で、別に代助の心配を物《もの》にする様子もなかつたが、少時《しばらく》話《はな》してゐるうちに、
「己《おれ》も大分《だいぶ》年《とし》を取つてな」と云ひ出《だ》した。其調子が何時《いつ》もの父《ちゝ》とは全く違《ちが》つてゐ
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