硝子《がらす》を通《とほ》して斜《なゝめ》に遠方を透《す》かして見るときは猶|左様《さう》いふ感じがした。
弁慶橋《べんけいばし》で乗り換《か》えてからは、人もまばらに、雨も小降《こぶ》りになつた。頭《あたま》も楽《らく》に濡《ぬ》れた世の中《なか》を眺める事が出来《でき》た。けれども機嫌《きげん》の悪《わる》い父《ちゝ》の顔《かほ》が、色々な表情を以て彼《かれ》の脳髄を刺戟した。想像の談話さへ明《あきら》かに耳に響《ひゞ》いた。
玄関を上《あが》つて、奥へ通る前《まへ》に、例の如く一応|嫂《あによめ》に逢つた。嫂《あによめ》は、
「鬱陶しい御天気ぢやありませんか」と愛想よく自分で茶を汲んで呉れた。然し代助は飲む気にもならなかつた。
「御父《おとう》さんが待つて御出《おいで》でせうから、一寸《ちよつと》行《い》つて話《はなし》をして来《き》ませう」と立ち掛《か》けた。嫂《あによめ》は不安らしい顔《かほ》をして、
「代さん、成《な》らう事なら、年寄《としより》に心配を掛けない様になさいよ。御父《おとう》さんだつて、もう長《なが》い事はありませんから」と云つた。代助は梅子の口《くち》か
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