つた代助は、逢はない前に比べると、余程心の平和に接近し易くなつた。然し是は彼の予期する通りに行《い》つた迄で、別に意外の結果と云ふ程のものではなかつた。
 会見の翌日彼は永らく手に持つてゐた賽《さい》を思ひ切つて投《な》げた人の決心を以て起きた。彼は自分と三千代の運命に対して、昨日《きのふ》から一種の責任を帯びねば済まぬ身《み》になつたと自覚した。しかも夫《それ》は自《みづか》ら進んで求めた責任に違《ちが》いなかつた。従つて、それを自分の脊《せ》に負ふて、苦しいとは思へなかつた。その重《おも》みに押されるがため、却つて自然と足《あし》が前に出る様な気がした。彼は自《みづか》ら切り開いた此運命の断片を頭《あたま》に乗《の》せて、父《ちゝ》と決戦すべき準備を整へた。父《ちゝ》の後《あと》には兄《あに》がゐた、嫂《あによめ》がゐた。是等と戦つた後《あと》には平岡がゐた。是等を切り抜《ぬ》けても大きな社会があつた。個人の自由と情実を毫も斟酌して呉《く》れない器械の様な社会があつた。代助には此社会が今全然暗黒に見えた。代助は凡てと戦ふ覚悟をした。
 彼は自分で自分の勇気と胆力に驚ろいた。彼は今日
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