を貴方《あなた》に話《はな》したい為《ため》にわざ/\貴方《あなた》を呼《よ》んだのです」
 代助の言葉には、普通の愛人《あいじん》の用ひる様な甘《あま》い文彩《あや》を含《ふく》んでゐなかつた。彼の調子は其言葉と共に簡単で素朴であつた。寧ろ厳粛の域に逼《せま》つてゐた。但《たゞ》、夫丈《それだけ》の事を語《かた》る為《ため》に、急用として、わざ/\三千代を呼んだ所が、玩具《おもちや》の詩歌《しか》に類してゐた。けれども、三千代は固より、斯う云ふ意味での俗を離れた急用を理解し得る女であつた。其上|世間《せけん》の小説に出《で》て来《く》る青春《せいしゆん》時代の修辞には、多くの興味を持つてゐなかつた。代助の言葉が、三千代の官能に華《はな》やかな何物をも与へなかつたのは、事実であつた。三千代がそれに渇いてゐなかつたのも事実であつた。代助の言葉は官能を通り越して、すぐ三千代の心《こゝろ》に達した。三千代は顫《ふる》へる睫毛《まつげ》の間《あひだ》から、涙を頬《ほゝ》の上《うへ》に流した。
「僕はそれを貴方《あなた》に承知して貰《もら》ひたいのです。承知して下《くだ》さい」
 三千代は猶|泣
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