《な》いた。代助に返事をする所《どころ》ではなかつた。袂《たもと》から手帛《ハンケチ》を出《だ》して顔《かほ》へ当《あ》てた。濃い眉《まゆ》の一部分と、額《ひたひ》と生際《はえぎは》丈が代助の眼《め》に残つた。代助は椅子を三千代の方へ摺《す》り寄せた。
「承知して下《くだ》さるでせう」と耳《みゝ》の傍《はた》で云つた。三千代は、まだ顔《かほ》を蔽つてゐた。しやくり上げながら、
「余《あんま》りだわ」と云ふ声が手帛《ハンケチ》の中《なか》で聞えた。それが代助の聴覚を電流の如くに冒した。代助は自分の告白が遅《おそ》過ぎたと云ふ事を切に自覚した。打ち明けるならば三千代が平岡へ嫁《とつ》ぐ前に打ち明けなければならない筈であつた。彼は涙《なみだ》と涙《なみだ》の間《あひだ》をぼつ/\綴《つゞ》る三千代の此一語を聞くに堪えなかつた。
「僕は三四年前に、貴方《あなた》に左様《さう》打ち明けなければならなかつたのです」と云つて、憮《ぶ》然として口《くち》を閉《と》ぢた。三千代は急に手帛《ハンケチ》を顔《かほ》から離《はな》した。瞼《まぶた》の赤《あか》くなつた眼《め》を突然代助の上《うへ》に※[#「目
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