今《いま》も、少しも違《ちが》つてゐやしないのです」と答へた儘、猶しばらくは眼《め》を相手から離さなかつた。三千代は忽ち視線を外《そ》らした。さうして、半《なか》ば独り言《ごと》の様に、
「だつて、あの時から、もう違《ちが》つてゐらしつたんですもの」と云つた。
三千代の言葉は普通の談話としては余りに声が低過《ひくすぎ》た。代助は消《き》えて行く影《かげ》を踏《ふ》まへる如くに、すぐ其尾を捕《とら》えた。
「違《ちが》やしません。貴方《あなた》にはたゞ左様《さう》見える丈です。左様《さう》見《み》えたつて仕方がないが、それは僻目《ひがめ》だ」
代助の方は通例よりも熱心に判然《はつきり》した声《こえ》で自己を弁護する如くに云つた。三千代の声は益|低《ひく》かつた。
「僻目《ひがめ》でも何でも可《よ》くつてよ」
代助は黙《だま》つて三千代の様子を窺《うかゞ》つた。三千代は始めから、眼《め》を伏《ふ》せてゐた。代助には其長い睫毛《まつげ》の顫《ふる》へる様《さま》が能く見えた。
十四の十
「僕の存在には貴方《あなた》が必要だ。何《ど》うしても必要だ。僕《ぼく》は夫丈の事
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