じを得た丈であつた。
代助は其頃から趣味の人として、三千代の兄《あに》に臨んでゐた。三千代の兄《あに》は其方面に於て、普通以上の感受性を持つてゐなかつた。深い話《はなし》になると、正直に分《わか》らないと自白して、余計な議論を避《さ》けた。何処《どこ》からか arbiter《アービター》 elegantiarum《エレガンシアルム》 と云ふ字を見付出《みつけだ》して来《き》て、それを代助の異名の様に濫用したのは、其頃の事であつた。三千代は隣《とな》りの部屋で黙《だま》つて兄《あに》と代助の話《はなし》を聞いてゐた。仕舞にはとう/\ arbiter《アービター》 elegantiarum《エレガンシアルム》 と云ふ字を覚えた。ある時其意味を兄《あに》に尋ねて、驚ろかれた事があつた。
兄《あに》は趣味に関する妹の教育を、凡て代助に委任した如くに見えた。代助を待つて啓発されべき妹の頭脳に、接触の機会を出来る丈与へる様に力めた。代助も辞退はしなかつた。後《あと》から顧みると、自《みづか》ら進んで其任に当つたと思はれる痕迹もあつた。三千代は固より喜《よろこ》んで彼《かれ》の指導を受けた。三人
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