り》の子供に大変人望がある。嫂《あによめ》にも可《か》なりある。兄《あに》には、あるんだか、ないんだか分《わか》らない。会《たま》に兄《あに》と弟《おとゝ》が顔を合せると、たゞ浮世《うきよ》話をする。双方とも普通の顔で、大いに平気で遣《や》つてゐる。陳腐に慣《な》れ抜《ぬ》いた様子である。

       三の二

 代助の尤《もつと》も応《こた》へるのは親爺《おやぢ》である。好《い》い年《とし》をして、若《わか》い妾《めかけ》を持《も》つてゐるが、それは構《かま》はない。代助から云《い》ふと寧ろ賛成な位なもので、彼《かれ》は妾《めかけ》を置く余裕のないものに限《かぎ》つて、蓄妾《ちくしよう》の攻撃をするんだと考へてゐる。親爺《おやぢ》は又|大分《だいぶ》の八釜《やかま》し屋《や》である。小供のうちは心魂《しんこん》に徹《てつ》して困却した事がある。しかし成人《せいじん》の今日《こんにち》では、それにも別段辟易する必要を認《みと》めない。たゞ応《こた》へるのは、自分の青年時代と、代助の現今とを混同して、両方共|大《たい》した変りはないと信じてゐる事である。それだから、自分の昔し世に処《
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