貴方《あなた》に一から十迄相談して、何《なに》か為《な》さらないかも知れませんよ。御父《おとう》さんから見れば夫《それ》が当り前ですもの。さうでも、為《し》なくつちや、生《い》きてる内《うち》に、貴方《あなた》の奥《おく》さんの顔を見る事は出来ないぢやありませんか」
代助は落ち付いて嫂《あによめ》の云ふ事を聴《き》いてゐた。梅子《うめこ》の言葉が切れても、容易に口《くち》を動《うご》かさなかつた。若《も》し反駁《はんぱく》をする日には、話《はなし》が段々込み入る許《ばかり》で、此方《こちら》の思ふ所は決して、梅子の耳へ通らないと考へた。けれども向ふの云ひ分《ぶん》を肯《うけが》ふ気は丸でなかつた。実際問題として、双方が困《こま》る様になる許《ばかり》と信じたからである。それで、嫂《あによめ》に向つて、
「貴方《あなた》の仰《おつ》しやる所も、一理あるが、私《わたし》にも私《わたし》の考があるから、まあ打遣《うちや》つて置《お》いて下《くだ》さい」と云つた。其調子には梅子《うめこ》の干渉を面倒がる気色《けしき》が自然と見えた。すると梅子は黙《だま》つてゐなかつた。
「そりや代《だい》さ
前へ
次へ
全490ページ中374ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング