る。後《あと》で、それは日本から輸出したものだと云ふ事が分つて大笑ひになつた。三越陳列所へ行つて、それを調べて来たものは代助である。夫《それ》から西洋の音楽が好《す》きで、よく代助に誘ひ出されて聞《きゝ》に行く。さうかと思ふと易断《うらなひ》に非常な興味を有《も》つてゐる。石龍子《せきりうし》と尾島某《おじまなにがし》を大いに崇拝する。代助も二三度御|相伴《しようばん》に、俥《くるま》で易者《えきしや》の許《もと》迄|食付《くつつ》いて行つた事がある。
 誠太郎と云ふ子は近頃ベースボールに熱中してゐる。代助が行つて時々《とき/″\》球《たま》を投《な》げてやる事がある。彼は妙な希望を持つた子供である。毎年《まいとし》夏《なつ》の初めに、多くの焼芋《やきいも》屋が俄然として氷水《こほりみづ》屋に変化するとき、第一番に馳けつけて、汗も出ないのに、氷菓《アイスクリーム》を食《く》ふものは誠太郎である。氷菓《アイスクリーム》がないときには、氷水《こほりみづ》で我慢する。さうして得意になつて帰つて来《く》る。近頃では、もし相撲の常設館が出来たら、一番|先《さき》へ這入つて見たいと云つてゐる。叔父
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