も、それは二人《ふたり》とも早く死んで仕舞つた。母も死んで仕舞つた。
 代助の一家《いつけ》は是丈の人数《にんず》から出来上《できあが》つてゐる。そのうちで外《そと》へ出《で》てゐるものは、西洋に行つた姉と、近頃《ちかごろ》一戸を構へた代助ばかりだから、本家《ほんけ》には大小合せて四人《よつたり》残る訳になる。
 代助は月に一度《いちど》は必ず本家《ほんけ》へ金《かね》を貰ひに行く。代助は親《おや》の金《かね》とも、兄《あに》の金ともつかぬものを使《つか》つて生きてゐる。月《つき》に一度の外《ほか》にも、退屈になれば出掛けて行く。さうして子供に調戯《からか》つたり、書生と五目並《ごもくならべ》をしたり、嫂《あによめ》と芝居の評をしたりして帰つて来《く》る。
 代助は此|嫂《あによめ》を好《す》いてゐる。此|嫂《あによめ》は、天保調と明治の現代調を、容赦なく継《つ》ぎ合《あは》せた様な一種の人物である。わざ/\仏蘭西《ふらんす》にゐる義妹《いもうと》に注文して、六づかしい名のつく、頗る高価な織物《おりもの》を取寄せて、それを四五人で裁《た》つて、帯に仕立てゝ着《き》て見たり何《なに》かす
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