た。梅雨《つゆ》に入つて二三日|凄《すさ》まじく降《ふ》つた揚句なので、地面《ぢめん》にも、木《き》の枝にも、埃《ほこり》らしいものは悉《ことごと》くしつとりと静《しづ》まつてゐた。日《ひ》の色《いろ》は以前より薄《うす》かつた。雲《くも》の切《き》れ間《ま》から、落ちて来《く》る光線は、下界《げかい》の湿《しめ》り気《け》のために、半ば反射力を失つた様に柔らかに見えた。代助は床屋《とこや》の鏡《かゞみ》で、わが姿《すがた》を映《うつ》しながら、例の如くふつくらした頬《ほゝ》を撫《な》でゝ、今日《けふ》から愈積極的生活に入るのだと思つた。
青山へ来《き》て見ると、玄関に車《くるま》が二台程あつた。供待《ともまち》の車夫は蹴込《けこみ》に倚《よ》り掛《かゝ》つて眠つた儘、代助の通り過ぎるのを知らなかつた。座敷には梅子が新聞《しんぶん》を膝《ひざ》の上《うへ》へ乗《の》せて、込《こ》み入つた庭《には》の緑《みどり》をぼんやり眺めてゐた。是もぽかんと眠《ね》むさうであつた。代助はいきなり梅子《うめこ》の前へ坐《すは》つた。
「御父《おとう》さんは居《ゐ》ますか」
嫂《あによめ》は返事をす
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