ケツトから時計を出《だ》して見て、
「失敬だが、もう一時間程して来《き》てくれないか」と云つた。代助は帽子を取つて、又|暗《くら》い埃《ほこり》だらけの階段を下《お》りた。表へ出《で》ると、夫《それ》でも涼《すゞ》しい風が吹いた。
代助はあてもなく、其所《そこ》いらを逍遥《ぶらつ》いた。さうして、愈平岡と逢つたら、どんな風に話《はなし》を切《き》り出《だ》さうかと工夫した。代助の意は、三千代に刻下の安慰を、少しでも与へたい為《ため》に外《ほか》ならなかつた。けれども、夫《それ》が為《ため》に、却つて平岡の感情を害《がい》する事があるかも知れないと思つた。代助は其悪結果の極端として、平岡と自分の間に起り得る破裂をさへ予想した。然し、其時は何《ど》んな具合にして、三千代を救はうかと云ふ成|案《あん》はなかつた。代助は三千代と相対《あひたい》づくで、自分等《じぶんら》二人《ふたり》の間《あひだ》をあれ以上に何《ど》うかする勇気を有《も》たなかつたと同時に、三千代のために、何《なに》かしなくては居られなくなつたのである。だから、今日《けふ》の会見は、理知の作用から出《で》た安全の策と云ふより
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