いた。代助は此|問《とひ》にも答へる事が出|来《き》なかつた。

       十三の五

 しばらく黙然《もくねん》として三千代の顔を見てゐるうちに、女の頬《ほゝ》から血《ち》の色《いろ》が次第に退《しり》ぞいて行《い》つて、普通よりは眼《め》に付く程|蒼白《あをしろ》くなつた。其時《そのとき》代助は三千代と差向《さしむかひ》で、より長く坐《すは》つてゐる事の危険に、始めて気が付《つ》いた。自然の情|合《あひ》から流《なが》れる相互の言葉が、無意識のうちに彼等を駆つて、準《じゆん》縄の埒《らつ》を踏《ふ》み超えさせるのは、今《いま》二三|分《ぷん》の裡《うち》にあつた。代助は固より夫《それ》より先《さき》へ進《すゝ》んでも、猶|素知《そし》らぬ顔《かほ》で引返《ひきかへ》し得《う》る、会話の方を心得《こゝろえ》てゐた。彼は西洋の小説を読むたびに、そのうちに出《で》て来《く》る男女の情話が、あまりに露骨《ろこつ》で、あまりに放肆で、且つあまりに直線的に濃厚なのを平生から怪《あやし》んでゐた。原語で読めば兎に角、日本には訳し得ぬ趣味のものと考へてゐた。従つて彼は自分と三千代との関係を発展
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