させる為《ため》に、舶来の台詞《せりふ》を用ひる意志は毫もなかつた。少《すく》なくとも二人《ふたり》の間《あひだ》では、尋常の言葉で充分用が足りたのである。が、其所《そこ》に、甲の位地から、知らぬ間《ま》に乙の位置に滑《すべ》り込む危険が潜《ひそ》んでゐた。代助は辛《から》うじて、今一歩《いまいつぽ》と云ふ際《きは》どい所で、踏み留《とゞ》まつた。帰る時、三千代《みちよ》は玄関迄送つて来《き》て、
「淋《さむ》しくつて不可《いけ》ないから、又|来《き》て頂戴」と云つた。下女はまだ裏《うら》で張物《はりもの》をしてゐた。
表《おもて》へ出《で》た代助は、ふら/\と一丁程|歩《ある》いた。好《い》い所《ところ》で切《き》り上《あ》げたといふ意識があるべき筈であるのに、彼《かれ》の心《こゝろ》にはさう云ふ満足が些《ちつ》とも無《な》かつた。と云つて、もつと三千代と対座してゐて、自然の命《めい》ずるが儘《まゝ》に、話し尽して帰れば可《よ》かつたといふ後|悔《くわい》もなかつた。彼《かれ》は、彼所《あすこ》で切り上《あ》げても、五分十分の後切り上げても、必竟は同じ事であつたと思ひ出した。自分と
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