とは違《ちが》つて、何《なに》か為《し》なくてはゐられない頭《あたま》の状態であつた。
彼は立ち上《あ》がつて、茶《ちや》の間《ま》へ来《き》て、畳んである羽織を又|引掛《ひつかけ》た。さうして玄関に脱《ぬ》ぎ棄てた下駄を穿《は》いて馳《か》け出《だ》す様に門を出《で》た。時は四時頃であつた。神楽坂《かぐらざか》を下《お》りて、当《あて》もなく、眼《め》に付《つ》いた第一の電車に乗《の》つた。車掌に行先《ゆくさき》を問はれたとき、口《くち》から出任《でまか》せの返事をした。紙入《かみいれ》を開《あ》けたら、三千代に遣《や》つた旅行費の余りが、三折《みつをり》の深底《ふかぞこ》の方にまだ這入つてゐた。代助は乗車券を買つた後《あと》で、札の数を調べて見た。
彼《かれ》は其晩を赤坂のある待合で暮《く》らした。其所《そこ》で面白い話《はなし》を聞《き》いた。ある若《わか》くて美くしい女が、去る男と関係して、其種《そのたね》を宿《やど》した所が、愈子を生《う》む段になつて、涙《なみだ》を零《こぼ》して悲《かな》しがつた。後《あと》から其訳を聞いたら、こんな年《とし》で子供を生《う》ませられる
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