》のうちで、尤も不幸なものであると云ふ様な考は少しも起さなかつた。たゞ是がため、今日《こんにち》迄の程度より以上に、父《ちゝ》と自分の間《あひだ》が隔《へだた》つて来《き》さうなのを不快に感じた。
 彼は隔離の極端として、父子《ふし》絶縁の状態を想像して見た。さうして其所《そこ》に一種の苦痛を認《みと》めた。けれども、其苦痛は堪え得られない程度のものではなかつた。寧《むし》ろそれから生ずる財源の杜絶《とぜつ》の方が恐ろしかつた。
 もし馬鈴薯《ポテトー》が金剛石《ダイヤモンド》より大切になつたら、人間《にんげん》はもう駄目であると、代助は平生から考へてゐた。向後|父《ちゝ》の怒《いかり》に触れて、万一|金銭《きんせん》上の関係が絶えるとすれば、彼《かれ》は厭《いや》でも金剛石《ダイヤモンド》を放り出して、馬鈴薯《ポテトー》に噛《かぢ》り付かなければならない。さうして其|償《つぐなひ》には自然の愛が残る丈である。其愛の対象は他人の細君であつた。
 彼は寐ながら、何時《いつ》迄も考へた。けれども、彼の頭《あたま》は何時《いつ》迄も何処《どこ》へも到|着《ちやく》する事が出来なかつた。彼は自
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