》は掛物《かけもの》の前《まへ》に立つて、はあ仇英《きうえい》だね、はあ応挙だねと云ふ丈であつた。面白《おもしろ》い顔《かほ》もしないから、面白い様にも見えなかつた。それから真偽《しんぎ》の鑑定の為《ため》に、虫眼鏡《むしめがね》などを振《ふ》り舞《ま》はさない所は、誠吾も代助も同じ事であつた。父《ちゝ》の様に、こんな波《なみ》は昔《むかし》の人《ひと》は描《か》かないものだから、法にかなつてゐない抔といふ批評は、双方共に、未だ嘗て如何なる画に対しても加へた事はなかつた。
 父《ちゝ》は乾《かは》いた会話《くわいわ》に色彩《しきさい》を添《そ》へるため、やがて好《す》きな方面の問題に触《ふ》れて見た。所が一二言《いちにげん》で、高木はさう云ふ事《こと》に丸《まる》で無頓着な男であるといふ事が分《わか》つた。父《ちゝ》は老巧の人《ひと》だから、すぐ退却した。けれども双方に安全な領分に帰ると、双方共に談話の意味を感じなかつた。父《ちゝ》は已《やむ》を得ず、高木に何《ど》んな娯楽があるかを確《たしか》めた。高木は特別に娯楽を持《も》たない由《よし》を答へた。父《ちゝ》は万事休すといふ体裁で、
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