濃《こ》い葉巻《はまき》の、火《ひ》の消えたのを、指《ゆび》の股《また》に挟《はさ》んで、平然として代助の新聞を読《よ》んでゐた。代助の顔《かほ》を見るや否や、
「此室《このへや》は大変|好《い》い香《にほひ》がする様だが、御前《おまへ》の頭《あたま》かい」と聞いた。
「僕《ぼく》の頭《あたま》の見える前《まへ》からでせう」と答《こた》へて、昨夜《ゆふべ》の香水の事を話《はな》した。兄《あに》は、落ち付いて、
「はゝあ、大分|洒落《しやれ》た事をやるな」と云つた。

       十二の四

 兄《あに》は滅多に代助の所へ来《き》た事のない男であつた。たまに来《く》れば必ず来《こ》なくつてならない用事を持つてゐた。さうして、用を済《す》ますとさつさと帰つて行つた。今日《けふ》も何事《なにごと》か起《おこ》つたに違《ちがひ》ないと代助は考へた。さうして、それは昨日《きのふ》誠太郎を好加減《いゝかげん》に胡魔化《ごまくわ》して返《かへ》した反響だらうと想像した。五六|分《ぷん》雑談をしてゐるうちに、兄《あに》はとう/\斯《か》う云ひ出《だ》した。
「昨夕《ゆふべ》誠太郎が帰《かへ》つて来《
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